- 2008-06-10 (火)
- 江
新聞やテレビでもすでに報道されているが、フランス料理界の巨匠、アラン・デュカスが大阪・桜橋の新しいサンケイビルに、「大阪テロワール」を根底にすえたビストロをオープンする。
2年以上も前から、そのコンセプトワークをお手伝いしている関係で、大阪の食とか大阪人の気質とかをいろいろムッシュ・デュカスに説明している。
おととしの9月来版の折には、1653年創業の魚商がルーツの小鯛雀鮨の「鮨萬本店」から「だし」が定評のうどんの「道頓堀今井」、浪速割烹「㐂川」、加えて新進仏料理人・高山シェフの「トゥールモンド」や早朝には中央卸売市場までを案内した。その模様は06年11月号の「あまから手帖」にて「九ッ星シェフ アラン・デュカス氏 大阪テロワールに遊ぶ」というタイトルで8ページにわたってレポートした。
「テロワール」というのは、「気候、地形、地質、土壌などの複合的地域性」といったところだが、要するにその土地の持つ代替不可能性で、レストランに引きつけて解釈すると、その街に合った店舗形態や、料理素材、調理法、味付け、嗜好、気質、歴史風土・・からなる、いわば大阪弁の言語構造のようなものである。がっちょや穴子、トビアラなどの大阪湾の魚介、神戸牛、京野菜やなにわ野菜、淡路島の鶏も「大阪テロワール」であるし、くいだおれ人形も鶴橋のガード下の焼肉も白雪温酒場も「大阪テロワール」である。
今回のプレスミーティング(食事会)は新町の「ヴレ・ド・ヴレ」で行われたのだが、この会合のアレンジと事務局をビストロを経営するサンケイビルとそれを運営するグループ・アラン・デュカス日本代表のファブリス・ルノーさんからまかされてしまったのである。
ルノーさんやサンケイビルの香川治久さん、あまから手帖の編集主幹の門上武司さんにも入っていただき、「大阪テロワール」的な店はどこかと話し合い、会場にお願いしたのは「ヴレ・ド・ヴレ」である。
大垣シェフは「武闘派」(@寺下光彦)のシェフで、わざわざ東京のブノワを訪ね、シェフ・マッシモ氏と打ち合わせをした。ルノーさんのイメージでは「店舗は旧いフランス料理然とした内装の店ではなく、大阪らしい新しい感覚の店で」であり「大阪の季節感ある料理で、あくまで試食ではなくデザート、コーヒーまでしっかりした食事を」とのことで「でも、やりすぎないようにね」と付け加える。
ルノーさんもなかなか大阪的である。
その抜群に「大阪テロワール」な中身は、松澤壱子さんがちゃんとレポートしているので、そちらを見ていただくとして 、この食事の場で、在阪のプレスのみなさんに、レストランを経営するサンケイビルの中本逸郎社長とアラン・デュカス本人が店舗の概要を発表するのである。
このプレス・ミーティングには、大阪市長にぜひ来ていただいて「味にうるさい大阪人を代表して、出店を歓迎します」とか「大阪の素材は良いからよろしく」とかもお願いしたいと思った。
そして平松邦夫市長は多分「一企業の店の宣伝になることはまずいんと違うか」などと役人から言われたりされただろうが、お忙しい中「ヴレ・ド・ヴレ」に姿を見せ、歓迎の挨拶をされて、在阪のテレビ、新聞、雑誌の記者たちを驚かせた。またデュカス夫人やナウム在大阪・神戸仏総領事にもおいでいただいた。
プレスいや取材陣のみなさんは「大阪そして大阪文化ということにこだわってがんがん書いていらっしゃる方で、食べ物にもウルサい」ジャーナリストを基準に選ばせていただいた。「初年度売り上げ予想を教えてください」という質問ではなく「 わたしら大阪人にどんな旨いもんを喰わせてくれるんですか」とか「大阪らしいフランス料理というのは有りですか」と質問される方を優先させていただいたのである。
このレストランは店舗形態としてはより庶民的な「ビストロ」であり、店名は「ル・コントワール・ド・ブノワ」と名づけられた。「ブノワ」というのは1912年パリにオープンしたビストロで、4代にわたっての経営権を「グループ・アラン・デュカス」が05年に買い取った。パリのビストロとしてはミシュランで唯一1ッ星を獲得している。「ブノワ」を冠する店舗はパリの店舗と05年の東京・青山、今年オープンしたニューヨークに続いての4軒目だが、単なる「ブノワ」ではない。それは「コントワール」であり、大阪にビストロのエスプリを適合させたものである。
コントワールとはカウンターのことで、カウンター越しに料理人が刺身をひいたり煮たり焼いたりする大阪発祥の「割烹」スタイルから発想を得ている。大阪湾や瀬戸内の魚、京やなにわ野菜、神戸牛と恵まれた地元の食材を活かした割烹料理は、フランスにおいてのビストロの料理と共通していると言える、とのことである。
オーセンティックでボリュームよく、気取りのないビストロ料理は、日常を楽しみひけらかしを好まない大阪の人の高い要求にも適うことであろう、とアラン・デュカスは付け加える。
食事が終わって、門上さんの司会の元、ムッシュ・デュカスと大垣シェフの鼎談、そしてその後は質疑応答でありこれは見物だった。
「BRUTUS」ほかをやっている寺下光彦氏は「大阪の割烹はメニューが無く、今日はこれが食べたいと客が言ってそれを料理人は出すが、そういうことをするのか」という鋭い質問で、デュカス氏は「料理人が客に振り回されるようなことはしない」と答えた。
東京からわざわざ(帰って)来た「ENGINE」編集部の松尾大氏 は「東京では3ッ星の名声だけで人が入るが、大阪はそういうところではないというのを理解しているか」と殺生な質問で座を湧かせたが、デュカス氏は「そんなのは15年前のことですね」とあっさり答えて笑いを取った。
「Hanakoウエスト」の元編集長の吉村司氏は「大阪人は味にも値段にもウルサいが、今日のこの料理はいくらが妥当だと思うか」と訊き、笑いの渦にしたが、デュカス氏は「それはノーコメントだ」とあっさりいなした。
この実に大阪テロワールらしい質疑応答が「押した」おかげで、その後の市長公館の訪問が遅れるのであったが、ずっと通訳をしていたルノーさんは「記者が予定時間オーバーなのになかなかお帰りにならないとは、ラテンみたいですね」と最後に言って一座は爆笑。
(続く)
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