- 2009-05-13 (水)
- 大迫
少し前の連休中、「月刊島民」でもおなじみ[ナカガワ1948]の大平秀峰さんと尼崎でお会いした。
[ナカガワ]と言えば、西梅田や淀屋橋の店が有名なのだが、実は発祥は尼崎。それも商店街のど真ん中というザッツ下町ロケーションなのである。3年前、いったん店を閉めたのだが、先月末、再び同じ場所にカムバックされた。
取材でお世話になったのをきっかけに、一張羅関係はこちらで買わせていただいていることもあり、大平さんとは大変仲良くしてもらっている。そのお祝いと、「で、またなんで再オープンされたんですか?」のちょっとした取材も兼ねての一席となった。
店を終えた大平さんからの電話を受けて、「それでは[枡千]前で」と商店街の中の練り物屋を待ち合わせ場所にする。このあたりが地元で遊ぶときの楽しいところだったりする。[ナカガワ]のある中央商店街はじめ、それに連なる三和商店街などの一帯は通っていた小学校の校区なのだ。さんざん遊んだこの街が、今やハシゴの舞台となっている。いや、長いこと遊ばせてもらっていると言うべきか。
とりあえず軽く食べながらということになり、阪神電車の高架下の串カツ[あさひ]へ。サクッというよりざっくり、しっかりした衣の串を食べながら、大平さんに「へえ、そうなんですか」な話をいろいろと聞くことができた。
生まれてこの方ずっと尼崎に住む者にとって、この[ナカガワ]再オープンの話は本当に嬉しいものだった。商店街の店主らと喋っていると「あそこで背広買うのが夢やった」などという話をよく聞くし、何より信頼のおける老舗といった印象のあるテーラーに「地元だから」という理由で通えることがちょっとした自慢だった。ただ、その反面、ずいぶん客層も店の並びも変わってきた商店街にあることは、なかなか商売的には難しい面もあるのではないかと思ったりもしていた。
つまり、帰ってきたことを喜びつつも、ほんとに良かったの? と思う部分もあり、そこのところを聞いてみたかった。そう聞くと、大平さんはいつものように「いやあ、うーん、そうですねえ」といった感じで話してくださった。
「やっぱりね、アマのお客さんはうちも商店街中の一つやと思ってくださってるんですよ。だからビニール袋下げて来る人とかいますもん。えべっさんの帰りに寄ってくれて、『大平くん、ゲン担ぎやから』言うて、スーツ一揃え注文してくれる人もいますしね」
なんじゃそりゃ、「ゲン担ぎ」とは(笑)。 店名にもあるとおり、[ナカガワ]が創業して60年以上。その歴史には並々ならない意味があったことを、一時だが閉店したことであらためて思い知ったと大平さんは言う。「常連の方にご連絡したら、『アマにないんやったらもう買えへんぞ』って言われたりもしましたよ(苦笑)」。尼崎にあることでしか得られないものがたくさんあったことに気づかされたそうだ。
その中でも一番大きなものは、「生活文化」であるということだった。「商品を売るだけやったら、極端な話、まあどこでも良いわけですよ。でも、ここにあることで、“ファッション”から“文化”になるんじゃないかと思うんです」。
これは大平さんなりの独特の表現かもしれないが、なんとなくニュアンスは分かる。売らんかなの消費マインドであれば、尼崎よりもっと人の集まるターミナルや百貨店でやった方が良い。ただし、それは「人の数」とか「年収」とか、あくまでも数字だけをあてにした話であって、グローバルスタンダードとしてはそれはそれで正しい。けれどそのマインドでは「創業の地で看板をずっと守っていること」や「商店街にある土着性がもたらすワン&オンリー性」といった数字で計ることのできないものは見えないし、よもやそれがブランドなり店なりの評判、もっと端的に言えば売り上げにつながっていることなど分からないだろう。大平さんの言う“ファッション”には、そんな消費至上主義を揶揄するニュアンスが込められていたように思う。
かくして再び尼崎の[ナカガワ]の歴史が始まった。岩手県の農家のご出身である服好きの店長が、遠く離れた尼崎の土着・地域性を求めたことは、尼崎の1軒の店の話にとどまらず、これからの街に求められるものを考える際のキーワードになるんじゃないかという気さえする。なんていうのは少し大げさかも知れないが。
ともかく、老舗テーラーに似つかわしくない、でも商店街にあると思えばぴったりな、大平さんの「まいどです~」から始まる接客口上がまた聞けると思うだけでとても嬉しい。
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