- 2009-05-29 (金)
- 大迫
「エスクワイア」落語特集の取材時の1カット。※撮影は西岡潔さん
水曜日は定時の午後7時に会社を出て地下鉄御堂筋線で心斎橋へ。そこから心斎橋筋商店街を抜けて東へ向かい、[バー・ジャズ]を訪れる。この日は、すでにこの店では恒例となっている「落語会」があったのだ。
マスターの牧慶次さんが落語好きであることもあって、この店では4年前から落語会が行われている。高座を見て「この人!」と思ったという桂春菜さんに直接お願いしてスタートしたとのことだ。とは言っても、普段はジャズが流れ、牧さんの折り目正しい接客が気持ちの良いバーである。 一体どんな落語会かと思っていたら、カウンターには幕を張って「楽屋」とし、片隅に畳半畳ほどの「高座」が作られている。観客は30人弱。他の落語会よりぐっと年齢層は低く、いつものバーの客層と変わらない街遊び好きの人たちが集まっている感じだ。
一席目は桂吉の丞さん。まだお若い。 調べてみると1982年生まれ。自分より若い方の落語を聞くのは初めてだった。噺は「時うどん」。うどんを食べて勘定するときに、途中で時刻を尋ねて1文 ごまかそうというやつである。落語は少し勉強したのでこの噺は知っていた。こういう時に内容を知っていると、どんな風にアイデアを凝らすんだろうという見 方ができて楽しい。真冬の時期の噺を汗だくで喋っておられた。
さて、 いよいよ桂春菜さんである。春菜さんには先日発売になった「エスクワイア」の落語特集でお世話になった。定席の少ない関西では、このバー・ジャズのように、街場での小さな落語会も多い。そのへん、話す方・話してもらう方はそれぞれにどう思っているのかインタビューさせてもらったのだ。春菜さんの高座は、編集している最中に一度、トリイホールで拝見したことがある。この日はずいぶんと若い顔ぶれを前にして、とてもとてもリラックスされていた。マクラには最近の時事ネタも連発。客席のリアクションも速いため、その「場」がノッていく様子が体感できる。このへんの即興性をうまく掴めるかどうかが、普段落語をやらない場所で喋るときの勘所だと春菜さんはおっしゃっていた。「そこの所はジャズにも似ていますね」と牧さんも言ってたっけ。
最初は「山内一豊と千代」の噺。夫唱婦随で有名な、司馬遼太郎『功名が辻』の主人公である。タイトルがわからなかったのだが、創作ものだろうか。ハイライトは流鏑馬のシーンなのだが、そこで一豊とコンビを組む名馬が「南部の出身」なのだが、それが実は「大阪の南部」だったという設定に爆笑。「いや、泉南ですねん」の馬のセリフにどっと湧いた。いやー面白かった。
もう一席は一転して切ない人情噺。幼い子の命を助けるスリの噺に、一同真剣に聴き入る。ラストは涙ぐむ人まで…。思い切り笑わせて今度は泣かせる。これが「芸」なんだなあ。春菜さんはもうすぐ「三代目桂春蝶」の襲名を控えているが、やっぱりノッてる噺家さんは違うね(偉そうに)。
取材の際にお聞きしたところでは、春菜さんはバーだけでなく教会やカフェ、レストランでもやったことがあるそうだ。最近はいわゆる落語のための場所で開かれるのではない会もどんどん増えていて、「店にはいると『ここで落語やるんやったら』と考えてしまう」のが職業病のようになっているらしい。こういった噺家の側のフットワークの軽さがあるからこそ、街の落語好きたちが遠慮なく「うちでもやってくれませんか」とお願いすることができるのだろう。話す方・聞く方の双方にとって幸せなこんな関係が育まれたのも、つまるところ、みんな笑ったり笑わせたりするのが好きな土壌ゆえだろう。定席のない上方落語をずっと支えてきたのは、やっぱり人なんだなと思うバーでの落語体験だった。
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