- 2009-06-24 (水)
- 中島
バッキー井上の新刊単行本『京都 店特撰』のゲラを通しで読んでみたが、ブログの時には読み飛ばしていたような言葉がビシバシと突き刺さるように現れては消え、消えては現れる。縦組みの文字に託された井上英男という書き手のフレーズ力を改めて思い知らされ、ちょっと新鮮な驚きを味わっている。
30いくつかの話を読み終わったときに京都の街への何とも言えない「愛おしさ」や「哀しさ」がこみ上げてきた。暑い日なのに生ビールよりも日本酒の熱燗できずしが食いたいと猛烈に思った。版元の代表がこんなことを言うのは変なのを承知で申し上げれば、不思議な本である。
店のことをこんな情感たっぷりに表現したテキストを過去に読んだことはない。が、この本はどう考えても「店のガイドブック」ではない(住所や電話番号はちゃんと書いてあるが)。
少しでも★や点数が多い店に行きたいとか、1泊しかできないから「ハズさない」店に行きたいとかいって手当たり次第に情報を集めて「武装」する人には不向きな本かもしれない。それは例えば、あなたの街へ遊びに来たヨソの人が「ハズれない店知りませんか?」とガイドブック(あればの話だが)片手に目を血走らせて尋ねてきたら、きっとあなたは「まぁまぁ、そない肩に力入れんでも」「ここに載っているような店やったらどこ行っても大丈夫でっせ」と言うはずである。
京都もそれと同じことだと思う。
バッキーが「京都は選手の層が厚い」と冒頭で力説しているように、この『京都 店特撰』に載ってない名店もそれこそ星の数ほどある。だからもしこの本に登場していてあなたの琴線に触れるような店が休みだったりいっぱいだったりしても、がっかりする必要は何もない。そのすぐ近くに地元の人間で賑わう店がきっとあるはずだし、それはきっと「特撰」な店である。
この本が指し示しているのは、「俺が昔から通っているのはこんなにスペシャルな店だ」(そんなものは言わずもがなである)ということでは決してなく、「街の気配や店や人の気配を感じながらその瞬間の自分の戦闘値だけで勝負して遊ぶのが京都ではゴキゲンの近道だと思う」とか「多少失敗してもひるむことなく愛のさざ波のように京都を使い込んでしまおう」とか「外で飲むときはその店の投げる球をただ飲むことが酒場を最も楽しめるスタンスだ」(いずれも『京都 店特撰』より)とかいう、すてきな街や店への「アプローチの仕方」「敬意の払い方」ではないかと思う。
だからちょっと変わった「京都との付き合い方」のガイド本であるが、実は日本はおろか世界中どこの街へ行っても通用する「街や店でしあわせになる方法」になることは保証する。
バッキーはこの本で「街から聞こえてくる歌はいつも濡れていた」と書き、彼の心に突き刺さってきたフレーズ(歌詞)を酒場や街の記憶に寄り添いながらいくつか紹介している。
それは藤圭子の「圭子の夢は夜ひらく」であったり、野口五郎の「19:00の街」であったり、高橋真梨子の「ごめんね」であったり、大橋節夫の「ズボンの折り目」であったり菅原洋一の「今日でお別れ」であったり都はるみの「大阪しぐれ」であったりするのだが、バッキーの歌のくだりを読みながら、今日20回目の命日を迎えた歌手のことをぼんやりと思い出していた。
そういえばあの人も京都が大好きで、天才少女歌手としてブレイクしていた子供の頃に寺町三条の[スマート珈琲店]へ母親と一緒に行って、ホットケーキ&クリームソーダを注文するのが至福のひとときだったらしい。大人になったら御幸町の旅館からスッピンで錦市場を訪れ、誰にも気づかれないままに[鳥羽庄](3年前に閉店)などで魚を買い出しするのが密かな愉しみだったそうだ。
父親の影響で小学校低学年の頃から長唄、端唄、都々逸をうなり、百人一首はほとんどすべて諳んじるほどに子供の頃から「フレーズの女王」だった。生きていればまだ72歳。大好きな錦市場に行ったついでにバッキーの店で漬物を買い、[百練]や[たつみ]で熱燗を傾けながら興に乗って好きな歌を唄ってくれたかもしれない。サービス精神旺盛な人で、酔うと自分の歌・他人の歌おかまいなしにリクエストにお応えして唄う、ということを祇園のフグ料理店のご主人が懐かしそうに話すのを聞いた。
それでも未来達は 人待ち顔してほほえむ
人生って 嬉しいものですね(愛燦燦)
美空ひばりが亡くなってから20年経っても、幸いなことに私達は「街」や「店」のことを書いたり編集したりを生業にして生きている。そして好きな歌のことを書いたり話したりできる場所がある。
それはやっぱり、「嬉しいもの」に違いない。
このブログ内をタグ検索: 大橋節夫, 百練, 美空ひばり, 野口五郎, 都はるみ, 藤圭子, 鳥羽庄, たつみ, バッキー井上, スマート珈琲店, 愛燦燦, 京都 店特撰, 錦高倉屋, 高橋真梨子, 菅原洋一
- Newer: ハンソク日記〜道田編〜
- Older: 中之島 vs ベニス「水の都」対決
Comments:0
Trackback:0
- TrackBack URL for this entry
- http://www.140b.jp/cgi-bin/mt/mt-tb.cgi/595
- Listed below are links to weblogs that reference
- 突き刺さるフレーズ@京都店特撰。 from 編集集団140Bブログ