第6回 駅・空港

イメージを背負う都市の顔。

文/高岡伸一
絵/綱本武雄

 

 JR大阪駅の1日の乗車数約40万人、関西国際空港の航空旅客数1日約1万3千人。都市の建築のなかで、最も多くの人が利用するのが鉄道駅や空港といった交通施設だろう。駅と空港は都市の顔だ。日々通う人にとっては日常の基底をなし、外から訪れる人にとっては、非日常の空間への入口となる。駅や空港の第一印象で、旅の気分が決まってしまうことだってあるだろう。魅力的な玄関口をもっているかどうかは、都市のイメージを決定づける重要なポイントとなる。

 大阪の駅の歴史は、もちろん大阪駅からはじまる。1874年、当時はまだ大阪市外で墓地の拡がる殺風景な梅田に駅舎が設けられ、まず大阪—神戸間が開通した。その後1885年の阪堺鉄道(のちに南海電鉄)を皮切りに、1900年を過ぎると私鉄がこぞって開業する。特に1930年前後に相次いで完成した阪急ビル南海ビルは、ターミナルデパートという新しい建築のタイプを生みだした。そして浅草—上野間で開業した日本初の地下鉄に遅れること5年半、1933年に梅田—心斎橋間で地下鉄が営業を開始。戦後高度経済成長期には、夢の超特急・新幹線が実現した。一方空の玄関口は、現在の大阪国際空港が1939年に大阪第二飛行場として開港し、戦後GHQの接収解除後、1958年に大阪空港として再開、その翌年に国際路線を開設して大阪国際空港となった。そして36年を経て、1994年に関西国際空港がオープンする。

 鉄道駅と空港のターミナルビルの特徴は、なんといってもその「長さ」だ。ずっと奥まで続いていく細長い空間の体験は、他の建築ではまず考えられない。歴史やデザイン云々よりも、まず「長さ」が駅空間の特質を決める。人工島というまっさらな土地に建てられた関西国際空港ターミナルビルは、全長実に1.7km。建築のスケールを遙かに超えるその長さは、地球の丸さを設計で意識するほど。

 鉄道駅で長いのは何といっても新幹線。新大阪駅の長さは330m、ちょうど東京タワーを横にしたくらいになる。今でこそ駅周辺には高層ビルが建ち並ぶが、開業時は周囲に遮るものがなく、高く持ち上げられたガラスの高架駅に新幹線が吸い込まれていく様は、まさに未来の出現を実感させた。

 一方、地下鉄も長さで大きな話題となった。御堂筋と地下鉄の同時工事を決めたのは時の大阪市長・関一だが、彼は一両編成の車両しか走らないのに、将来の輸送量を見越して、10両編成でも対応できる長さのホームをつくった。関西建築界の父と呼ばれる武田五一を設計・監修に迎え、華麗でモダンな空間を実現させた。当時、社会から長すぎる、贅沢すぎると非難されたが、現在の御堂筋線は10両編成。都市計画家でもあった関市長の先見の明には、私たちも感謝しなければならないだろう。

 今大阪では、JR大阪駅をはじめ、駅舎や駅ビルの建て替え、改修が相次いでいるが、どのように生まれ変わるにしろ、いつの時代も大阪の顔として、人をワクワクさせる空間であってほしい。