その29 キャラメルママという、なんだかなぜだか、荒井由実だけのバー。「キャラメルママ」「ディランセカンド」

京都の木屋町に随分前から荒井由実または松任谷由実のレコードだけをかけるバーがある。現在は河原町三条上ル二筋目を東に入ったビルにあるが、以前は濃厚なところにあった。

もう今は跡形もなくなったけれど河原町と木屋町の間の筋、中華料理の「ハマムラ」の筋を東に入ったところに近畿会館という飲食店ビルがあり「キャラメルママ」はそこにあった。

30年くらい前から京都で遊んでいた人ならこの会館のどこかの店に足を踏み入れたことがあると思う。1980年頃のニューウェーブ初期の頃は「バタリングラム」(通称バタラム)という店があり、タテノリ系のニューウェイブ男や女や中京区系のお洒落ディスコ系もタイル張りのそのお洒落な店で夜毎盛り上がっていた。

その会館には様々な酒場があった。ボサノバとジャズで飲ませてくれる店もあったし、ヤンキー系の酒場も学生ノリの酒場も水商売のアフター系のはしり的な店などいろいろあった。また、今や伝説になったスナックというかラウンジというかバーというか、着物を着たママやチーママや滅茶苦茶に水商売的な女性やどこまでも素人的な美人やハウスマヌカンやダイアナロスしか歌わない女やなどが入れ替わり立ち替わり接客をしてくれた「阿紅釈」という店もこの会館にあった。そしてこの近畿会館に最後まで灯をともしていた「ウイズ」という通称「キンネエスナック」は、年がら年中、年齢も仕事も職業も遊び方もバラバラの奴らがいつも熱唱するために集まっていた奇妙なスナックだった。

この店をやっているのは
「戦後人生」という名の男。

時代の変遷を見事に映してきたそんな会館から出発した「キャラメルママ」だが、この店だけはスタートから現在に至るまでずっと荒井由実だ。飛行機雲だ。あの日に帰りたいだ。卒業写真だ。いつも荒井由実、ずっと荒井由実。なんだかわからないが俺は今でもここによく行ってしまう。ちなみにこの店をやっている男は「戦後人生」というニックネームの男。「ディランセカンド」という店も木屋町でやっている。下手の横好きで将棋の好きな男だ。「戦後人生」という男と羽生四冠(当時)対佐藤康光の将棋を見に行ったことがある。

木屋町の「ディランセカンド」のマスターの戦後人生が、日経新聞主催の棋王戦がウェスティン都ホテルで開催されるというので仕事のあと急いで向かう。羽生四冠対佐藤康光。大盤解説に谷川浩司という豪華な顔ぶれ。ホテルを駆け足で進み大盤解説場に入ると大勢の将棋ファンがいた。入った瞬間にこの会場の中で一番弱いのは俺だろうと思った。

会場の隅に無料のドリンクコーナーがあったが酒も水割りもなかったのでますます会場の空気が気になった。俺が到着する前に戦後人生からこんなメールが来ていた。
「開始早々、8手目に佐藤、飛車先を放置して銀上がるの新手が出て序盤より未知の将棋。おもしろいです」

俺が到着した頃には中盤にさしかかりつつあり、非常に難解、戦後人生も会場の隅で苦悩に満ちた顔をしていた。谷川九段の解説はスマートで人に優しくて何とも感じがいい。けれども対局している羽生四冠と佐藤康光九段は壮絶な将棋を指している。そのコントラストもまたたまらない。用があり中座した俺に、終局まで観戦していた戦後人生からこんなメールが2通連続して届いた。

「終局は10時25分位でした。両対局者、大盤解説場に挨拶に来ましたが力を使い果たし二人共、痴呆のような表情になっているのに感動しました」

「街の将棋道場で見知らぬおっさんに試すならともかく、タイトル戦しかも羽生を相手に奇想天外とも思える手を試した挑戦者・佐藤康光。その男らしさと勇気に泣かされました。正にプロの将棋。負けても格好良いんですから」

俺は、戦後人生の酒場で飲んできてよかったと思った。キャラメルママでもディランセカンドでも俺のウイスキーのボトルがきれることはない。

キャラメルママ
京都市中京区河原町通三条上ル二筋目東入ル エリゼビル3階 
電話番号:075-213-0959 
営業時間:6:00PM→4:00AM
定休日:無休

ディランセカンド
京都市中京区木屋町蛸薬師上ル下樵木町192 樵木ビル4階 
電話番号:075-223-3838 
営業時間:8:00PM→6:00AM
定休日:無休

2009年04月29日 16:41

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