その35 中年の導火線。

それにしてもけったいなことを始めてしまった。

「聞いて語る祭」というと飲むためのネタみたいに思われるが、実は全然違うことが始まっている。音楽を聴くために集まっているのではない。そのアーチストのファンが集まっているのでもない。予約も出来ないし参加確認があるわけでもない。その日そのアーチストのレコードがただかかっているだけ。

けれどもこの祭が始まってからなんだかゴキゲンが近いうちにやってくる予感がある。それは俺だけではなくてチョコチョコこの祭に来ている人達も何となく感じているようだ。こんなメールを俺は時々携帯に送っている。

 

「明日木曜日は、聞いて語る祭。オレらは足りない。うちらも足りない。毎日でも聞いて語る祭やらな足らない。矢沢永吉がアンコールのラストに「長い旅」を歌った。最後に一曲紹介しますと言って、「長い旅」を歌いはじめた。1978年に作詞山川啓介・作曲矢沢永吉の歌。アルバムはたぶん「ア・デイ」。違う「ゴールドラッシュ」や。俺は十九。水道配管工バリバリ時代。神など信じないが愛なら信じられる。

矢沢、今六十歳、俺五十。相対的。矢沢二十五歳の時、俺は十五歳中三。俺ハタチの時矢沢アメリカ狙ってロスに行ってた。俺が中学の頃に出会った矢沢永吉、今も俺のど真ん中にいる。五十年生きてきて三十五年矢沢よろしくと付き合い憧れている。止まらない離れない生まれてからビートのとりこ。相対してくれる先輩いてしあわせ。後輩いる俺ラッキー。そして道中出来てる仲間、矢沢より最高。サイバイサイ、メニィー! もう考えるやろ、でも疲れたらあかんしな。聞いて語る祭に毎回きてカタリーナ・ビッチ!」

俺はいろんな音楽や酒や店や人と道中してきた。

これは矢沢永吉の聞いて語る祭の案内ではない。矢沢永吉はまだやっていない。サイモンとガーファンクルかジョン・レノンの時に送ったメールのはず。こんなレコードかけるから来てくれとか一緒に飲もうとかそんな感じではない。いろいろあるわいな。そんな感じ。俺はいろんな音楽や酒や店や人と道中してきた。それは俺だけではなく多くの人もそんなことだったのだろうと思う。だから、いろいろあるわいな。そしてこんなメールでノドを鳴らす。

「いよいよ俺達の大好きな師走マンスリー!ひょんなことから始まった聞いて語る祭もいよいよ佳境。今夜はダウンタウンブギウギバンド。今リハーサルでデビューアルバム聞いて今メールしてる。「今日から他人 遊ぶつもりで声をかけて  耳もとにキザなセリフ並べた 何も知らないウブなお前を  一から十まで俺のせいさ」

時代とシンクロしてる音楽は俺達の子供時代少年時代青年時代をそのまま冷凍保存してくれている。それを解凍して懐かしがりたくもないけど聞こえてくれば何か思う。そして横に誰かいればあとはおぼろ、オボロ影。時代がない世の中になったから今の歌も歌手もつまらないのかもしれない。さあへこたれないでやって行きましょう。今夜、恋のかけら。そんなこともあるさ」

行きがかりじょう始まった、聞いて語る祭。さあ2010年もどんどんやらないと俺の好きなクールスまでたどりつかへん。
飲めるか今夜も。

少しずつだけどなにもしなくてもバーでひとりで飲めるようになってきた。ギムレットやウイスキーなど相変わらず昔から同じものを飲んでいるし、背丈も服装もヘアースタイルも変わらないしカウンターで飲んでいる光景は同じように見えると思うが十年前と今ではずいぶん違っている。

まず店を見なくなった。そしてあれしよこれしよと思わなくなった。ドアが開いてもそこを見なくなった。飲むこと飲んでいることに意識がなくなった。ひとりでもふたりでも三人でも微妙な何かをずらすだけでヒュッとグラスを上げ下げできる。鼻を濡らしてさあ今夜も飲もう。

2010年04月14日 19:50

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