「みんな」はどうでも、それに関しては「世間」(=町内会)が許さへんやろ。

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「義理と人情」の「部分社会」。

岸和田だんじり祭一年でぶっちきりに一番忙しいだんじり祭も終わって、「やれやれ」と「さあ」が行ったり来たというところです。

岸和田のだんじり祭、この激しい祭礼に際しては、毎年毎年いろんなことが起きますが、根本は実に単純で、諸先輩方がやってこられた約束事をなぞるように、祭に向けての段取りやそのための寄り合いを繰り返し、祭当日を迎えて遣り回しをキメ、今年もええ祭やったと泣く。そこに「祭の二日は人の一年」といわれ「祭こそ人生」と例えられる喜怒哀楽があることです。

実際には、それこそ「10万人の町内会大決起集会」という感じで、それこそ桃知が言う「テポドンが飛んできても(銀行が破綻しても、福田首相が政権を投げ出しても)町内会がしっかりしていれば大丈夫」を地でいってます。

たとえば安政元年の大地震はマグニチュード8.4だったらしいですが、まさに大坂は天神祭の真っ最中で、「六番の地車が強震中を物ともせず宮入した事が『大阪地震記』に見ゑてゐる」(藤里好古『天神祭船渡御式』ー「浪花のなりわい」より)ということです。
ことこの地車に関しては、その後、大坂の天神祭では地車は廃り、岸和田はその本場を奪いました。

「みんな」はどうであれ、「われわれ」はやる。
この「われわれ」はしっかりとした「部分社会」ですね。「そいつについては、『世間』は認めないぞ」みたいなもの。

こういう時の「世間」つまり「強固なわれわれ」は、実に頼もしいですね。そしてこの「世間」というのはまだまだ人情とか義理が幅を利かすところで、そのダブルバインドに人は挟まれながらも、桃知がいうような「エッジの立った個」がありありと在る。

義理とか人情というと、何を因循なことをこの人は言うてるのか、と思われそうですが、「これはあかんやろ」という倫理の元になるのが「義理」で、「そうは言うても個人的にはわかるわなあ」という欲望肯定が「人情」で、社会的規範と個人的感情の網の目みたいなものです。

わたしは子供の頃から、親に手を引かれてだんじりを曳きだして、早いものでもう40年余り。とうとう去年には、祭礼団体最年長の「世話人」としてだんじり祭に参加しています。

わたしの「町」もその際たるものですが、岸和田ではだんじり祭の参加運営者のほとんどが、すでに地元の町内には住んでいません。極端な町だと、参加者の1割しかその地元のだんじりがある町に住んでいないところもあります。

わたしたち昭和30年代生まれの世代について見てみると、すでに高校生の頃の昭和40年代後半から50年代前半に他所に引っ越す者が多くなった。それはクルマで30分程度の岸和田山手地区や泉北ニュータウンという「近場」が多いのですが、誰も彼もが商店街や長屋の下町を出て、近くの団地やマンション、はたまた郊外の集合住宅や1戸建てに住み替えました。親の家から独立する「核家族化」という流れも当然ある。

そのことについては別に悪いことじゃないですね。

「世間」に対しての「すまなさ」。

しかし祭に「帰る身」としては何だか「世間」に申し訳ない。その「世間」というのはもちろん、だんじりがあるところの「地元」で、いま現に住んでいるとことそれはちがう。毎年、必ず同じ日に祭があり、寄り合いにも出ずに祭の段取りもろくすっぽせずに祭当日に帰ってきてだんじりに参加するのは、おいしいとこ取りをするようで、やっぱり「すまんな」と思う。

けれどもそういう岸和田人はまれです。
わたしの場合もそうだが、月に1回の寄り合いや9月に入るとほぼ毎日ある寄り合いには、極力参加している。神戸から2時間かけて岸和田市五軒屋町の会館に集合している。それでも何だか「あかんなあ」と思うのである。

言っておくが「うさぎ追いし、あの山」みたいな「故郷」といったイメージは、わたしたちの「地元」である岸和田の場合は全くありません。強いて言うならコミュニケーションの環境というかあるいは水準で、「お出かけか。どこへ行くん」という会話や「ほな、気をつけて」といった、自分のことばかりではなくて人が人をいつも気遣うような場所から出て行ってしまったことに対しての「すまない」なのです。

いつも「そこにいない」わたしにかかわらず、誰かが気にかけてくれている。そういうコミュニケーションのあるところを「地元」というのでしょう。

「地元」と感じられる街においては「世間」があり、そこにはハイライフ-ハイスタイルを追い求めるだけの「消費生活」だけではない、「実生活」というものがある。その実生活の中には、おのおのの社会的な属性といったものを超えた、人と人のあるべき姿がある。それがいい意味の「世間体」というヤツですか。

「地域社会」の最たるものである「町内会」やとか「地車祭礼関係者」といった「強固なわれわれ的世間」というのは色々あって、人はその重層的な「部分社会」を実人生として生きるわけですが、今や「国民」にしても「労働者」にしても「みんな」つまりのっぺりとした「全体社会」ですね。

テレビで口をゆがめて麻生さんから「国民のみなさんに…」と言われるのとは違って、「市民生活」「市民社会」というのはとても耳障りの良い言い方だけれど、これも同様に何だか常に「テレビ村」的でヘタレな感じがします。わたしは城下町で港町で漁師町で商店街である岸和田というところで生まれて育ったからかも知れないが、正直に言いますと、なんだか「市民社会」に馴染めないところがある。

それはお誕生日会やクリスマスやバレンタインデーとかよりも「だんじり祭やで」という感じなのですが、なんか警察やカメラに守られながら、暴力団事務所に「市民の敵、ぼーりょくだんは、出て行けー」というシュプレヒコールをやっているようなところがどうも引っ掛かるのです。

だんじり祭をやっていると、いやでもヤクザとかかわったりすることがあって、「市民社会を脅かす存在」などというよりも、彼らのうっとうしさえげつなさを身に染みて感じるのですが、そういう「世間」も現実的にバーンとある。

法治国家の一般市民社会は、だんじり祭のようなところや場面で、揉め事が起こったり、事故があったりすると、法の下に裁かれる。しかしながら法理は神のもので、倫理は人のものです。

だんじり祭で不幸なことに死亡事故が起こると、曳行責任者や町会長は警察や検察から「罪」に問われます。しょうがないですな。しかしそれは決して「恥」ではないはずです。だんじり祭は権利と義務とか契約ではなく、義理や人情そして仕切だ、とその「世間」は知っているからです。ちなみに岸和田だんじり祭の三原則は、祭禮年番による「岸和田地車祭礼実施要項」にもあるが、自主運営・自主規制・自主警備です。

「世間」の外部から。

けれども「世間」には必ず外部があるので、その「世間」とは異なる「世間」がある。これが「街的」の存在、つまりかけがえのない「たまらん」や「しびれる」がある「地域社会」=「部分社会」ですね。

岸和田旧市にしろ土建業界にしろそれぞれ「部分社会」なので、その「世間」の一歩外を出ると、そこでは「顔」を利かせて、ぶいぶいいわせてた人が、全体的な一般市民社会では、実はフリーターであったり人夫や土方の不熟練型労働者ですね。

だんじり祭に一生懸命になって命を賭ける奴や仕事を辞めたりするヤツは、ただの「アホ」です。しかし「みんな」はそいつのことを「アホやアホや」というけれど、そいつは「祭バカ」なのであって、岸和田では「ただの(=一般市民社会的な)アホ」とちゃいます(まあアホの奴も多いが)。

それが今ここでいうところの「世間」だと思うのです。

逆に「金で買えないモノはない」という真理も、そこの「金がものを言う」部分社会「だけ」で通用するはずで、こちとら「世間」が許さない。その部分社会は「経済社会」というヤツですか。しかしながら「世間知らず」というのはそれはもうイヤになるほどアメリカ型市民社会に多いですね。

このようにすべての「世間」は「世界(全体)」ではなく、それだけで決して完結しない存在で、ある「世間」とある「世間」のボーダーラインがある。しかしその世間を構成する社会集団と、違う社会集団との境界は曖昧で、伸びたり縮んだりするところにそれぞれの「世間」という社会のすべてがあるから、話はややこしい。

けれども「世間とつながっている」というのは、これはまさに「バロックの館」の一階部分ですね。だから「世間ときっちりつながっている」、つまりある部分社会で「顔」のある人間というのは、根底に義理とか人情とかをしっかり「わきまえて」いて案外別の社会でも通用するはずです。

しかし市場原理や経済合理性が貫徹しているところの「寂しい」社会にはその厚みがない。桃知が言うその通りだとわたしも思います。

若い頃は、「世間」というのはまったく、「世間知らず」の「世間」ばかりかなあ、などと思ったりしたのですが、なかなか「世間」が教えてくれたものも多いわけです。

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2008年09月25日 06:55

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