ドクター・ロバートの登場。
2010年11月16日 12:47
最近、ふとDVDを注文してしまった。高倉健の「駅」と「冬の華」と「夜叉」を買った。どれもたぶん何度も見た映画だ。30年ほど前、俺がハタチ前かハタチ過ぎの頃にどの映画も映画館で見た。そのあとテレビでやっているのを見たり、まだレンタルビデオ屋が全盛期の頃にそのビデオを借りてたぶん見た。それなのに急に激しく見たくなった。なんでなんだろうと考えながらDVDのビニール袋を開いていた。
最近というかここ半年くらい前から、なぜかわからないけれどハタチ前に見たこと聞いたこと読んだこと会ったこと行ったところ起こったことを妙に求めている。なぜなんだろう。俺は俺の中の医者に問うてみた。
ココロに立つ波風に怯えてしまっているのか。
ドクター・ロバートは言う。
「バッキーさん、あなた『新しく出来た店に行きたくない、たとえおいしい店や素敵な店であっても行くのがイヤだ』と言ってましたね」
「えっ、先生に言いましたっけ」
「あなたコラムに書いてられましたよ。新しい店に入れないイップスだとも書いていた。面白いことを書く人だなと以前から思っていたけど、『料理や酒なんかうまくなかったっていい。それがうまくなる術を知っているから味なんかどうだっていい』と何かで書かれていて私は少し驚きました。おいしくないものや店で出会ったり起こったりするイヤなことに対しても決して迎え撃たずやわらかなタッチで応酬するバッキーさんらしくないのでは、と思いました。昔から読んでいるからわざと突き放すその感じもよくわかるんですけどね」
「最近僕はなぜかよくわからないのですが、よりおいしいものを食べようとか何かを安く買えるとかから逃げているような気がします。それなのに自分の行動がそうであることに気づいたりした時に、イラついているのかも知れません」
「ふーん、それで」
「うーんうまく言えませんが、最近ココロに立つ波風にとても怯えているのかも知れません。他の人から波風が立つ原因を作られてもいいんです。面倒だけど何とかしようとします。でも自分自身で立ててしまう波風に極端に怯えているような気がします。だからハタチの頃に見た高倉健を見たくなるんでしょうか」
ドクター・ロバートは不意に立ち上がり、「バッキーさんがハタチ前後の頃のものに触れたがろうとするのはおそらく正しい流れなんでしょう。ご自身でそのように処方されているんだと思います。高倉健と舟唄ですか、極めて正しい処方です」と言い切った。俺はドクター・ロバートに、「先生、今日もありがとうございます」と礼をしてお顔を見るとドクター・ロバートは池部良だった。
駅と高倉健。
高倉健が主演している「駅」という映画の中で、健さんが倍賞千恵子のやっている「桐子」という小さな居酒屋で、大晦日に二人で紅白歌合戦を見てほとんど話さずに飲んでいる場面がある。カウンターの隅に置かれた小さなテレビ、その年の紅白のトリの八代亜紀が舟唄を歌っている。二人は何も話さない。倍賞千恵子が「お酒はぬるめのー燗がいいー」と、少しだけ歌をなぞる。俺はその場面こそが現代に生きる俺への投与薬だと確信している。別れ際に敬礼のポーズをとりながらクシャクシャに泣いているいしだあゆみ。警察に通報しながら昔の男を迎えてしまう倍賞千恵子。池部良に書いた辞表を駅で静かに破り列車に乗る高倉健。
映画があって俺は助かった。そう思っていると裏寺の[百練]に宇崎竜童さんがメシを食いに来てくれた。
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