その25 一見であることもゴキゲンのひとつ。「安参」「くらた」

知らない土地や店に行って偉そうにするのは元から横着な話だ。どうあがいても長い年月を経て積み重ねてきた店と店、店と人、人と人の関係があってこそ成り立っている遊びや遊び方を、一見の人間では出来ない。出来ると思ってはならない。

それは何も土地の名士や旦那さんや口やかましい大人達の話だけではない。レゲエがかかるバーでも七輪でスルメを焼く店でも一見は一見でしかない。

そう考えると誰も彼もみんな一見だ。一見は一見らしく行儀よくその場の空気をよく読み立ち居振る舞いさえすれば、常連さんや旦那さんよりもっとゴキゲンに遊ぶことが出来る。これは本当だ。俺が長い間、京都でそこら中の街で実践してきた。

店も本当は常連さんではなく行儀正しく筋のいい一見の客を求めているし、昔あるいは先代からの付き合いのお客に辟易してることもよくある話。特に京都は御所以外は全部下町ダウンタウン。誰もがその歴史と愛のさざ波のように続いてきた文化を享受している街。一見だからヨソ者だからと臆することなく、しかし横着は考えずに京都を遊んでしまおう。

誰でも行けるが、慣れないと厳しい店。
それこそが京都のええ店だ。

京都は一見お断りというスタイルの店よりも、誰でも行けるが慣れないときびしいという店が色っぽい。

例えば祗園の入り組んだ路地中にある「安参」。店の表(おもて)には赤い提灯に「テール」「煮込み」と描かれているので駅周辺にある大衆酒場を思いながら暖簾をくぐると、その想像を遙かに超えた雰囲気が現れる。店の中のその空気や音や声や動きや趣に、入ってもいいのかなと躊躇する。

高下駄を履いたご主人や板場さんやおかみさんが手を止める間もなくカウンターの中をきびきびと動き、店の端から端まであるカウンターには恰幅のいい紳士や和服あるいは艶やかな洋服のお姉さんが肩を寄せ合うような状態でいつもびっしりと連なっている。メニューはない。金額の表示もない。席に座ると生から行くかどうかだけ聞かれるだけだ。ハイと答えるとレバー刺し、タン、心臓、ユッケなどの生ものが順繰りに出てくる。この店に何度か通ったことがある人と行かないと要領がわからないと思う。

といってもこわくない。店の人は全員とても気が利くし、一見にもやさしく説明してくれる。けれども品書きもないのにみんな様々な料理を注文しているのでビギナーはつらいなと感じてしまう。何年何十年もこの店に通っている地元の俺でも知らないメニューがまだまだたくさんあり、今も半ビギナーだと思わせてくれる。こんな店こそ京都の宝物だろうと俺は思っている。

京都では、横着さえしなければ、
上手に遊ばせてもらえる。

逆に、京都の一線級の遊び人の旦那さんに連れて行ってもらった「くらた」では一見も常連もない。一見だと思えば一見にしてくれるし、常連的に迎えて欲しいと思えばそのようにしてくれる。バーのようなクラブのようなお茶屋のようなこの店は、俺がここ数年で知った中で最も気に入っている店のひとつ。

大きな半円の低めのカウンターで飲んでいると、勝手に旦那さんになっている時もあれば若者でいるときもある。旦那さんになればワイドショー的な笑いや話題は自然となくなり、前に座ってくれたママに苦笑いをさせられたりこっちが得意の「地球生き物紀行」の話をするだけだ。若者でいれば粋がらせてくれることも酔わせてくれることもある。

京都は横着さえしなければ、考えなければ、上手に遊ばせてもらえる街だということがよくわかる。


安参
艶のある情緒と気の入った空気がたまらない。まずは生肉から食べる。生レバーは開店直後に売り切れる。タン、ヒレ、ミノなどを堪能したあと焼き物や煮物に進んでいこう。肉割烹と言う人もいるが肉の寿司屋だと言う人もいた。
京都市東山区四条花見小路上ル一筋目東入ル一筋目上ル西側 
電話番号:075-541-9666 
営業時間:6:00PM→10:30PM 
定休日:日・祝休

くらた
クラブに飽きた人たちが静かに飲みに来ているような感じの店。半円のカウンターなので顔が刺すことは織り込み済みで誰も他のお客さんを意識することや見ることはない。ボトルを入れて二人で4万円ぐらい。ママも店の女の子も気立てがいい。
京都市東山区祇園縄手通末吉町東入ル サカタビル3階 
電話番号:075-551-6667 
営業時間:7:00PM→0:00AM 
定休日:日・祝休

2008年10月20日 21:29

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